2015.04.24

企業の取り組み:ギャップジャパン株式会社

インタビュー日:2015年04月14日

ギャップジャパン株式会社

【インタビュー】 
岸本しのぶさん(人事部 シニアマネージャー)
永野久美さん(コーポレートアフェアーズ マネージャー)
村上宏一さん(人事部 マネージャー) 

 

Q、御社のダイバーシティへの取り組みについて教えて下さい

岸本さん:Gapが大切にしているカルチャーのひとつに、‘Inspire Creativity(創造性を喚起しよう)’があります。これは様々なアイデアをもったメンバーがチームで意見を交わすことで、お互いのクリエイティビティ(創造性)を高め合おうという考えから生まれた言葉です。個人のもつ多様性を受け入れるからこそチームの視野が広がり、画期的なアイデアが生まれる・・。違うからこそ新しいものが生まれる、組織の活性化のために多様性は欠かせません。

Gapは、国籍や人種、肌の色、年齢、性別や性別認識、性的志向、宗教、妊娠の有無、障がい、学歴による一切の差別を禁止し、その人のもつパフォーマンスや可能性にフォーカスして人材を登用しています。これは、‘Do What’s right(正しいことを行う)’という考えのもと、「ゼロ・ミーンズ・ゼロ」という名前のポリシーとして明言化されています。私たちが働くうえで欠かすことができないルールです。万が一職場で差別的な行動や不適切な発言が発生した場合はアクション(処分)の対象になる、ということが厳しく明記されています。このポリシーは、アルバイトも含めた全従業員が入社のタイミングでオリエンテーションを通じて学ぶことができる仕組みになっています。責任をもって公正かつ倫理的に業務を推進する、という1969年創立当時の原則は今も私たちのカルチャーの基盤となっていますね。

永野さん:そのポリシーは差別のみならず、ハラスメント(嫌がらせ)や報復も禁止しています。実際に働いていてもこの会社のとてもフェアなカルチャーを感じます。性別、年齢、地位、あるいは障がいや信条、、、LGBTのみならず、いろいろな人が世の中にいて、その誰もが人として平等であり差別や嫌がらせは許されない、という考えが根付いています。

 

Q、御社のLGBTへの取り組みについて教えて下さい

岸本さん:LGBTへの取り組みとしては、去年は東京プライドパレードに参加しました。代々木公園の中でブースを出して、ブローシャーを配り、わたしたちのカルチャーをお伝えするということをしました。パレードの参加者の中には、‘以前Gapで働いていました!’という方との出会いもあったんですよ。またこの期間にあわせ、原宿の店舗のGAPロゴをレインボーにし、東京レインボーウィークのフライヤーを設置したりしました。また、キャンペーン実施にあたり、去年は原宿の店舗の従業員へは簡単なLGBT研修を実施しましたね。今年もパレードに参加します。新しい試みとして、お仕事を紹介するブースも出させていただくことになりました。

永野さん:レインボーのロゴは日本の社内のデザイナーが作ったものなんです。私たちのロゴはかなり“神聖”なもので、社内と言えども簡単にデザインや色を変えるということは元来できないんですね。なので、今回の取り組みはとても画期的なものでした。レインボーロゴのアイディアは、日本のいち従業員の発想からはじまりましたが多様性を受け入れるという会社ののカルチャーに合っていたためアメリカでも認められ賞賛を受けました。日本での成功を受けてカナダやヨーロッパの一部のストアでもプライド月間にあのデザインが取り入れられました。日本から発信されたGap社内でのサクセスストーリーといえます。

また、来店されたお客様の反応もポジティブでしたね。意味を知って、感動してくださったり賛同してくださったりという方はとても多く、また、店舗の前を通って「これはなんだろう」と、LGBTについて知るきっかけになった方はとても多かったんじゃないかと思います。今年も同じく東京レインボーウィークの期間には原宿店のロゴをレインボーにします。

岸本さん:また、現在OUT IN JAPANという、2020年までに1万人のLGBTのポートレートを撮ることを目指すキャンペーンのスポンサーもしており、撮影の際の服の提供をしています。被写体になったモデルの方の中にも、実は以前Gapで働いていました、という方がいて、非常に嬉しく思いました。

永野さん:社内的な支持がとても大きい取り組みなので、今後も広がっていくと思っています。

 

Q、なぜ企業としてLGBT支援に取り組むのですか?

岸本さん:同じタイプの人しかいない組織は発想力に乏しく、時として視野が狭くなってしまうことがあります。一方、チームを構成するメンバーがいろんな視点を持って多様な個性があればあるほど、チームの視野は広がっていいアウトプットが出来る。私たちは、多様性をもつスタッフのもつ可能性を信じて、LGBT、女性、障がい者、シニアなど、包括的なスタッフィングを行っていきます。様々な視点を持った人から、インスピレーションを受けアイデアが生まれてくるというケースは非常に多く、チームの持つ可能性や組織として働く醍醐味を感じますね。

村上さん:長年、店舗で店長業務をする中でファッション業界というかアパレルの店舗にいるスタッフでLGBTの方って多いと感じました。その方々は気づきが多かったり、細かな気配りができたり、一緒に働く上でサポートになる部分が多かった印象があります。それ以上に私たちはお客様相手にしている企業ですので、多いお店で一日1万人ほど来店されるお客様の中に、男性も女性もLGBTの方も外国の方も障がい者の方もいらっしゃいます。だからこそ、どのお客様が先でどのお客様が後で、という順番はなく、すべて平等というポリシーやカルチャーがありますので、ダイバーシティへの取り組みに順番をつけるということは、現場でもなかったです。

 

Q、御社の福利厚生について教えて下さい

岸本さん:Gap Inc.はLGBTの問題に関して公式な取り組みを始めたパイオニアです。そして、社会に先駆けて、福利厚生制度を受けられると法的に認められた全ての従業員と配偶者・パートナーをプログラムの対象としています。日本も、根本的な考え方に違いはありません。法律や環境の違いもあるので、将来的に適宜見直していくところもうまれてくるかもしれないと想定しています。

また、「オープン・ドア・ポリシー」といって、困ったら必ず上司の人に相談をするというポリシーもあります。もし何か相談したいことや懸念があれば、いつでも上司に相談できる。それが難しかったらその上の上司、または人事部に相談することもできます。解決すべき問題が起こったときは前向きにアクションを考えていく、という考えです。

 

Q、御社のCSRの取り組みについて教えて下さい

永野さん:CSRの2つの柱として、若者の就労支援と、女性の自立を掲げています。支援が必要な人々が、わたしたちの従業員との交流をきっかけに、少しでもよい将来を見つけることが出来るような取り組みを行っています。
1つ目の柱である若者の就労支援の一例としては、様々な理由でなかなか定職に就けない若者にお店で販売を体験してもらう職場体験を実施しています。外国にルーツを持ちながら日本の高校受験を目指して学ぶ若者や児童養護施設で暮らすお子さんなどへの取り組みに力をいれています。過去には「デニムデザインアワード」といって、子どもたちがチームに分かれてデニムをデザインし発表してもらうイベントをやりました。去年はビジュアル・マーチャンダイジングのワークショップを開催し、マネキンの着せ方や着用アイテムの選び方を学ぶレクチャーをした後に、子供たちが選んだアウトフィットをマネキンに着せて、どういう視点からそれを選んだのかを発表してもらうイベントもやりました。

つい先日は大学生に対するイベントも実施しました。ビジネスの観点から売り上げを伸ばすためのアクションを考えてもらい、実際にアクションを取った後に売り上げはどのように変わったのか、お店のデータを見ながら一緒に考えるという企画でした。後半は様々な部署から有志で集まった従業員に対して、キャリアについて何でも質問してもらう機会を設けました。私たちが支援している若者たちの置かれている状況は千差万別ですが、共通しているのは彼らが自分探しの途中にあるという点です。将来どこで暮らし、何をして、どんな風に生きたいのか。職業の一辺を体験したり、色々な経歴を持ってこの会社に集まった私たち従業員と触れ合う中で、ヒントが見つかると良いなと思います。

2つ目の柱である女性の自立では、わたしたちの工場があるいくつかの国々では、女性が社会的に弱い立場にあるケースがあります。そんな中でも自分らしく生きられるようトレーニングをふんだんに実施しています。国内では母子養護施設で暮らす女性たちが自分らしく自信を持って生きていけるように、メイクや着こなしのアドバイスやコーチングといった支援を少しずつ始めています。去年は、母子擁護施設でお子さんと暮らすお母さんたちが自由な数時間を過ごす間従業員がお子さんをお預かりして水族館に出かける活動もしました。

 

Q、LGBT学生・就活生へのメッセージをお願いします

村上さん: 5月20日、26日にLGBTの方を中心とした企業説明会&インタビューを開催しようと思っています。まずは4月25日、26日の東京プライドパレードでブースを設置し、その企業説明会の告知をします。それらを通してLGBTの就活は実際どういうことが難しく、どういうところに戸惑いを感じるのか、企業の側からも勉強させて頂きたいと思っています。我々も学びたいと思っていますので、安心していろいろな話を聞きにぜひ足を運んでもらいたいと思います。

永野さん:私、「なんでこの会社で働いているんですか」って聞かれると、「この会社が大好きだから」と答えます。多様性が当たり前のように受け入れられ、従業員が公平に扱われ、お客様も公平に扱うこの会社が私は大好きです。だからこれから仕事を探す人に対して言いたいのは、好きなことを探してほしいということ。私は大好きなこの会社と出会えてすごく幸せだなと思うので。「ただそこに仕事があったから」ということで諦めずに、「この会社好きだ」、「この仕事好きだ」っていう気持ちを追求してもらいたいと思います。

私はGapが日本に初上陸したときに転職しました。新卒で入社した会社でコンピューターの仕事をしていたんですけれども、自分に向いていない気がして、「私これ一生やっていくのかな」って思っていた時に、たまたま広告を見て軽い気持ちで応募したんです。ところが面接を受け進んでこの会社を知っていくうちに、ここで働きたいという気持ちがすごく強くなって、最後はここに絶対入ってやるっていう感じでした。嫌なことやつらいことはもちろんありますが、結局は「自分が好きでやってるんだから」という気持ちで「また明日も会社に行こう」と思えます。今もそういう気持ちを持ち続けています。

岸本さん:あえて、LGBTの方だけというメッセージではなくて、私が就職活動をされている皆さんに伝えていることをお伝えします。企業の選考を受けていると「選んでもらわなきゃ」と思ってしまうこともあるかもしれません。だけれど、同時にこれは、あなたにとっても職場を選ぶチャンスなんです。その会社が、ほんとに自分が働きたい会社かどうかっていうのを選ぶすごくいいチャンスなんです。こんなに色んな会社のことを知れることってない。だからそんな中でいろんな会社のことを知って、この会社に行きたいというものをまず見つけ、もしくはここでやりたいという仕事を見つけ、そのために自分をアピールしていくということが大事だと思います。選ばれるために自分を曲げる、偽る必要はないと思います。その上で、今の自分のポテンシャルを受け入れてくれる会社を見つけることがすごく大事です。就職活動って、うまくいかないと、自分のアイデンティティを否定されたみたいに思うこともいっぱいあるけど、そうではなくて。今はちょっと怖くても一歩だすことでいろんな出会いが広がっていることを信じて頑張ってほしいなと思います。

今日の3人のメンバーはみんなお店でキャリアをつんできて、そのあとに本社の仕事に携わるようになりました。実際、私も新卒でGapに入社しました。皆さんのキャリアはお店からスタートしますが、そのあとのキャリアはいろいろな方向に広がっているよ、ということもお伝えしておきたいと思います。自分はここが強い、ここが好きだっていうものを発見したら、そのエリアでキャリアを広げていければいい、手を挙げていけばいい。チャンスは自分次第で、怖いこともあるけど、転ぶこともあるけど、自分で掴みに行く、それも大事なことです。‘Do what you love(大好きなことをしよう)’Gapの創業者、ドン・フィッシャーの言葉を皆さんにも贈りたいと思います。

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