2015.05.15
インタビュー日:2015年04月22日
【インタビュー】
*塔村育子さん(コーポレート人事マネージャー)
*丸田千果さん(チャリティ・キャンペーン)
丸田さん:私のチームであるチャリティー・キャンペーンでは、大きく分けて二つの取り組みを行っています。まず1つ目に、ラッシュには消費税を除く売り上げの全額を寄付するチャリティ商品などがあり、人権問題、動物保護、環境保護の活動、東日本大震災復興支援活動をしている小さな草の根団体の応援をしています。この中でLGBTに取り組む団体のプロジェクトも応援してきました。これは、人も動物も自然も地球環境もすべてがハッピーに共存できる世界を作りたいという会社での信念のもと、実施しています。
また、2つ目はキャンペーンという取り組みで実施しています。
私たちにとってお店は最大のメディアであり、コミュニティーにもなりうるんですね。ショップスタッフとお客様の日々の会話を通して社会の中の問題に気づいてもらったり、一緒に声や署名を集めることで、イシューの改善・解決を目指し、社会に少しずつでも変化をもたらすための取り組みです。今は全国のショップとオンラインの両方で実施しています。
この背景には、ラッシュの創立者たちが、個々人が持っている「エシックス」、つまり倫理観や道徳観が、企業になっても変わるべきではなく、互いにケアする精神を忘れるべきではない、という考えを持った人たちだったのということがあります。なので、社会の中にある目を閉じたくなるような課題に対して、企業として向き合いという創立者の想いがあります。
その中で、ここ数年「WE BELIEVE IN LOVEキャンペーン」を実施しています。これは、どんな愛の形も素晴らしいし、いろんな形の愛を応援したいメッセージを発信しています。ラッシュが初めてLGBTに関するキャンペーンを実施したのは、2013年9月にロシアで制定された「反同性愛プロパガンダ禁止法」に異議を唱えたときでした。未成年に対する同性愛のプロパガンダを禁止するという法律ですが、それがセクシュアル・マイノリティ当事者への差別につながっているという現状も聞き、ラッシュとしてそれに向き合い、「NO」という声を挙げました。。その後、日本では2014年のバレンタインの時期に「WE BELIEVE IN LOVE ~愛でつながろう~」というキャンペーンをショップとSNSを連動し展開しました。その前年は国外の問題に対してキャンペーンを実施したのですが、このキャンペーンは日本独自で展開しました。また、最近2015年のバレンタイの時期には「WE BELIEVE IN LOVE –LGBT支援宣言-」というキャンペーンも展開しました。最近やっと日本国内でもLGBTという言葉を耳にする機会や、メディアで取り上げられる機会が増えてきたので、日本国内でのLGBTに関する取り組みを知ってもらい、継続・推進のためにも、LGBT施策に取り組む各自治体へ応援のメッセージを届けました。
塔村さん:お客様からすると、ラッシュは商品の印象が強いかもしれないですが、LUSHはビジネスの根底にエシカルマインドがあり、その上に成り立ってビジネスを展開している企業です。キャンペーンを実施する前には、全150店舗のショップマネージャーやショップの代表にトレーニングを実施するなどして、なぜこのキャンペーンを実施するのか、なぜラッシュとして取り組まないといけないのか、ということを専門家の方のお力添えも頂きながら、学ぶ機会を設けています。
もしかすると他の会社ですと、他にメインの仕事を持ちながら、社会に対する取り組みはCSRのプロジェクトとして行っている企業も多いかもしれませんが、チャリティーやキャンペーンに特化し企業のエシックスを推進するための部署が単独で存在しており、それを仕事としている人がいるという会社は非常に珍しいのではないでしょか?
丸田さん:メインの事業があって、それとは他に環境にいいことをしようとか、助成金プログラムを持つ企業もあって、それはとても大切なことだと思うのですが、私たちはこのような取り組みが事業を行う上で、いろんな部署で当たり前にされるべきという考え方を持っています。
例えば、店舗開発チームは店舗を作る際には古材を使うということをしていますし、ファイナンスチームは、スタッフが出張で飛行機を使った際に排出した二酸化炭素の量に生じて炭素税を課し、気候変動に取り組むプロジェクト等に寄付しています。ちなみに商品を作るキッチン(工場)で排出されるごみもゼロで、すべてリサイクルをしています。他にも、ギフトペーパーや名刺も、バナナペーパーというゴミになってしまうはずだったバナナの茎から作られた紙を使っています。循環、サステナビリティというのは全社をあげての最優先事項として取り組んでいるのです。
塔村さん:人事の視点からもLGBTに関して3つ取り組みを行っています。
1つ目に、同性間のパートナー登録という制度で、同性パートナーにも異性間の結婚と同じ待遇でお祝い金やお休みを付与しています。人事に申請書類を提出し、第三者の同意があれば適応されますが、いろんな愛の形を応援している企業としてはあたりまえのこと、と思って取り組んでいます。
2つ目はリクルーティングポリシーに人権の尊重はもちろんのこと、性的指向や性自認で差別しないことを明記しています。これは多くの反応をいただき、多くの方にご応募いただきました。
3つ目の取り組みとしては、採用のエントリーフォーム上で、性別欄を消しました。そもそも、問う必要がありませんので。
私たちが、あえて企業として声をあげこのようなことを行っている背景には、こういった取り組みを行うことによって一社でも同じような考えや取り組みをする企業が増えてほしいという願いがあります。ラッシュで働いている社員にとって、LGBTは当然のことで、例えばMtFトランスジェンダーの社員が女子トイレを使うことなどは、至極あたりまえのことです。しかし、こんな日常的なことに違和感を持ってらっしゃる会社さんが存在しているのであれば、あえてお聞きしてみたいと思います。
「その考え方を変えてみませんか?こういう考え方はできませんか?」などとノックするために、この取り組みをしました。でも、もっともっと声をあげていかないといけないと感じています。
丸田さん:また、専門家を招いたLGBT研修も実施しました。2014年はショップマネージャー向けに、2015年はキャンペーンのタイミングにあわせて本社のスタッフ向けに実施しました。研修に参加したスタッフからは「これまでは変に気を遣ってしまうところもあったけど、そういうところがなくなった。一緒にパレードに行きたい。」などの声をもらいました。
LGBTという言葉を知っている人は増えてきていますが、あえて区別せず、線引きしないで、みんな社会で生きている仲間だという認識がもっと広がるといいな、と思います。ラッシュの中だけでなく、社会で生きる一人の人としてのエシックス・価値観・倫理観というところまで、届けばきっと社会も変わると思っています。またラッシュとしても、現場で直接的な活動をしている方々とともに同じ方向を向いてアクションを起こしていくことで、社会にインパクトを与えることができると思っています。
丸田さん:「LGBT支援宣言」のように、自治体へ声を届けるキャンペーンをやっている企業は国内ではまだまだ少ないかと思いますが、ネガティブな声はほとんどありませんでした。むしろ、社内では支援の声が多く、LGBTの同僚、友人や家族など身近な人にもいるので、スタッフのモチベーションが高いトピックだと感じます。
日本ではキャンペーンという概念はまだ広がっておらず、キャンペーンの仕事をしているというと、「販促キャンペーン?」と聞かれることも多いですが、日本では何かに対して肯定的に応援したり、一緒に何かをやるというカルチャーはあると思うんですよね。なので、今回のLGBT支援宣言は、既にLGBTへの取り組みをしている自治体に対して、それがなくならないことがどれだけ大事か、継続して推進されて普及すればどれだけ素敵かということを伝え、応援する形をとりました。このキャンペーンは、大阪市淀川区さんの取り組みからインスパイアされて、お話しを伺ったことから始まりました。日本国内からだけではなく、海外からも応援や賞賛の声や訪問者が多くあったと聞きました。淀川区さんはもちろん、他の自治体でもLGBTに取り組んでいるところもあるからこそ、そういった施策を応援したいという想いからはじまったキャンペーンでした。
このキャンペーンを通じて、ショップに足を運んでいただいた当事者の方もたくさんいましたし、家族を連れて来てくれた方もいました。また、ショップスタッフからは、キャンペーンを通じたくさんのお客様から応援や感謝の声をいただけたということで、心に響いたし、とても新鮮だったとの声がありました。まだまだ足りないとは思いますが、少しずつ前進していきたいと思います。
声を届けた自治体の反応は様々でした。「え、私たちに感謝の声があるんですか?」と取り組みを応援してもらえることに驚いている方もいらっしゃれば、「ありがたい」という言葉もありましたし、「このような声をもらってもどのように活用できるのか..検討します」という冷静な声もありました。しかし、共通して感じたのは、行政などのパブリックセクターがやっていることへ市民からの後押しは少ないので、意味のあるアクションだったと感じています。
塔村さん:一緒に働く仲間というのを、採用の段階で年齢や性別やセクシュアリティ、障害の有無など、生まれもったもので判断してほしくないなと思っています。過去に実施したキャンペーン中に店舗に足を運んでくださっていたお客様が、今では社員として一緒に働いています。また、自分らしくいられることで、100%自分の持っている力を出せ、組織としてのメリットにもつながるので、LGBTへの取り組みは人材登用・活用に関わることだと考えます。
塔村さん:面接でうまくいかなくなると誰でも自信をなくしてしまいます。場合によっては、その人自身を否定されるような面接もあるかもしれません。でもそこは割り切って、本当の自分に向き合ってくれる人や企業にとの縁を探していくはいかがでしょうか?
自分が価値ある人間であるということを、もっと自信をもってもらいたいと思います。これだけ会社がありますし、良い縁がある会社は必ずあると思います。そしてそのような会社を、当社が声を上げることによっても増やしていきたいと思っています。
丸田さん:働くって何だろうと考えていくと、誰かのために何かをして、変化を起こすということだと思うんです。性のあり方にとらわれず、熱い気持ちをもった仲間に会いたいし、一緒に取り組んでいきたい。それが企業の存在する理由なのではないか、と強く思っています。そのような場所がすぐに見つからない人の方が多いと思うし、私自身も紆余曲折がありましたが、動き続けていればそういう場所に絶対出会えるはず、と思っています。