2017.09.25
昨今、いわゆる「セクハラ指針」[i]に好きになる性や自認する性にかんしての性的な言動をは職場のセクハラであることが明示されたり、同性のパートナーを持つ従業員に対して配偶者と同等の福利厚生などを適用する企業が現れはじめたり、少しずつ「LGBTが職場で抱える課題」に対して社会の認知が高まり、それに対する対策が講じられつつある。
ただ、LGBTが実際に職場でどのような困難を抱えているのか、実態をイメージができる人はそこまで多くないのではないだろうか。国内約7.6%、[ii]約13人に1人ともいわれているLGBT。50人規模の職場なら約4人、100人の職場なら約8人は、同じ職場にいる計算になる。あなたの職場にも、LGBTとして困難や不便さを抱えながら仕事をしている同僚がいるかもしれない。
今回は、LGBTの若手社会人に集まってもらい、職場環境や就職活動に関する悩みや、職場でのサバイバル術を取材した。
<今回取材に協力してくれた3名>
金澤さん:「僕は、トランスジェンダー男性[iii]なのですが、それを面接時から伝えていました。職場での性別の扱いをどうするか、トイレは男女どちらを使うかなど、人事が僕自身の希望を聞きながら細やかに対応してくれました。そして希望通り、男性用のスーツを着て、男子トイレを使用し、男性として働いていました。」
「ただ、困ったのは、入社直後の外部研修。合宿形式の外部の研修なので、社内のようにフレキシブルにはいかず…。結局、男子部屋で寝て、男子風呂に入ることなったのですが、入浴時間は5分!、という厳しい合宿だったので、短時間で体を隠しながら大勢と入浴する、というのはかなり厳しいものがあり…、ただ他の時間に個別で入るのは特別扱いになるので許可できないと施設に言われてしまいました。結局若干時間をずらして入ることでなんとか切り抜けたのですが、あれは大変でした。自社内ではフレキシブルに対応してもらえても、外部へ行くと不便さを痛感しますね。社員旅行で温泉とか、ゴルフコンペ後のシャワーなんかがあると大変だと思います。」
ユウタさん : 「私はバイセクシュアル[iv]なのですが、飲み会でカミングアウト[v]をしていない人から『どの女の子が好きなの?』としつこくいじられたりして、それは本当に嫌ですね。飲み会に行きたくなくなる。でも社内コミュニケーションも大事だと思うと行かざるを得なくて…。ただ、飲み会後に同期達が『あいつの発言ひどいよな』と声をかけてくれたりもして、理解のある同期や同僚がいることはほっとしました。」
カナさん:「私はレズビアンですが、社内ではLGBTへの差別的な発言などを聞くことは殆どなく、レズビアンとしても、女性としても特に嫌な思いをすることなく働けています。ただ、職種上、クライアント先に常駐することが大半で、クライアント先がLGBTフレンドリーな雰囲気じゃないと、やはり働きづらいです。クライアントとの飲み会の場だと、かなり過激で性的なジョークが飛び交っていて…、全部右から左へ受け流してますけど。でも上司がさりげなく話題を変えてくれたりして、その上司にカミングアウトしているわけではないですが、セクハラを許さない姿勢が染みついている人が多い会社なので、そういう場面でも頼りになる、というか守られてるなぁと感じます。また、会社内にLGBTグループがあるため当事者の先輩などにざっくばらんに相談したりしています。」
カナさん:「今は殆どカミングアウトしてないけど、いずれ同性のパートナーと子どもを育てる状況になった場合は全面的にカミングアウトしようと思っています。会社の結婚に関する福利厚生や制度も異性カップルと同様に利用したいし、子供を持ったら時短勤務制度も活用したいから、話さざるを得ないかと。同性パートナーも配偶者として福利厚生や人事制度を整えている会社が増えています。しかし、制度があるだけで、従業員ひとりひとりの理解や受け入れる雰囲気がなければ、LGBTの人はその制度を利用できないと思います。」
金澤さん:「僕の勤めていた会社は、LGBTに対応した制度は全く整ってませんでした。ただ、人事がひとつひとつ僕の希望を聞いて、ルールや慣習に縛られずに対応してくれてとても働きやすかったです。子育てしている従業員や、外国人従業員などもいて、元々多様性を大事にする雰囲気があったので、制度こそなかったものの、職場で自分のセクシュアリティをわりとオープンにして働いていました。」
ユウタさん:「就職活動をするにあたって、LGBTフレンドリーな企業であることは重要視しました。LGBTのイベントに参加したり、企業や団体のLGBTに関する取り組みを表彰する『PRIDE指標』をチェックしたりしました。」
カナさん:「私もかなり重要視しました。ただ、会社のウェブサイトなどでどれだけダイバーシティを大事にしますよ、と言っていても実際現場までどのくらい浸透しているかはわからないじゃないですか。だから、ツテをたどって、大勢のLGBTの社会人に話を聞き行って、社内の雰囲気まで徹底して調査しました。結構大変だったけど、そうしないと実際の職場の雰囲気がつかめないし、自分のロールモデルとなるような人の話が聞きたかったので、やって良かったなと思っています。」
金澤さんが現在働くNPO法人ReBit(りびっと)では、10月21日(土)にLGBT向けのワークイベント「RAINBOW CROSSING TOKYO 2017」を開催予定(http://lgbtcareer.org/rainbowcrossing/)。主にLGBTの学生/就活生/求職者/社会人と、LGBT施策に取り組む企業、そして就労支援者の三者が集まり、交流や、意見交換を通して「自分らしくはたらく」ことについて一緒に考えるイベント。参加予定企業は、ユニリーバ、資生堂、野村證券、GAPなど多種多様な業種から17社。参加者は500人を超える見込み。
金澤さん:「自分の就活の時、相談できる先輩や仲間がいなかったことはしんどかったですね。トランスジェンダーだからという理由で、企業で働くことを諦めている友人も多くて・・・、だからこそ自分はとにかく内定を取って、トランスジェンダーでも企業で働けるぞ!っていうのを示すっていうことに必死だった。それに頭がいっぱいで、本当は自分がどんな仕事をしたいのかをしっかり考えることができていませんでした。それもあって、結局新卒で入社した会社に長くは勤められませんでした。RAINBOW CROSSING TOKYOでは、LGBTの社会人や学生にたくさん出会えるので、周りに相談できる仲間やロールモデルがいない人は特にぜひ行ってみてほしいです。」
ユウタさん:「普段自分のセクシュアリティをオープンにして自分のキャリアプランの話をできる場所がないので、RAINBOW CROSSING TOKYOのように、自分のセクシュアリティを隠したりせず、かつ異性愛であることを前提にキャリアプランを話をされずにすんで、自由にキャリアプランについて語れる場は本当に貴重。しばらく転職予定はないけど、これからのキャリアプランを考えるヒントが得られるかな、と期待しています。」
カナさん:「必死にツテをたどって、色んな企業のLGBT当事者に会いに行っていた自分の就活時代を考えると、今はこんな便利なイベントがあって本気で羨ましいです(笑)。これだけ様々な業種の企業が集まってるから、自分の興味のある分野の話もきっと聞けるだろうし。自分がレズビアンとして働きやすい会社(女性やLGBTフレンドリーな会社、地方転勤がなくて都市部で働ける会社など)に絞って就活をしたことを後悔してはいないけど、これから就活する人には、自分がLGBTであることを理由に仕事の選択の幅を狭めてほしくないと切実に思います。ぜひ「RAINBOW CROSSING TOKYO」のような場所で色んな人、色んな会社の話を聞いて、自分が本当にやりたいことを、自分らしい働き方で実現できる仕事選びをしてほしいです。」
様々な不便さ、困難を抱えつつも、社内の理解やサポートを受けて日々働く3名に話を聞いた今回の取材。まだまだLGBT当事者が働きやすい職場環境が整備されていない現状が浮き彫りになった。と同時に、人事や同期や上司など周りの人が味方になってくれたことで救われることが多い、と3名とも口を揃えた。「RAINBOW CROSSING TOKYO」は、LGBTの人にとっても、自分らしく働くことを考えるきっかけを与えてくれるイベントだが、LGBTでない人にとっても、LGBTの同僚たちを含む誰もが働きやすい職場づくりを考えるヒントが得られる場なのではないだろうか。前出のカナさんの話にもあったように、いくら制度が整っていても、周りの理解や配慮がなければ、誰もが働きやすい職場の実現はありえないだろう。よりよい職場づくりのヒントを探しに、ぜひ足を運んでみてはいかがだろうか。
日時:2016年10月21日(土)
第一部(企業担当者向け):10:30~13:15 (開場10:00)
第二部(学生・求職者向け):14:30~19:30 (開場14:00)
場所:ベルサール飯田橋ファースト(東京都文京区)
参加費:無料(※要申し込み)
申し込み:http://lgbtcareer.org/rainbowcrossing/
コンテンツ(一部抜粋):
・各企業との交流ブース
・各企業による講演
・LGBTの社会人との交流ブース
・オーダーメイドスーツ採寸
・メーク講座